子ども料理科学教室 「野菜の甘さを生かしたクッキーを作る」

投稿者: | 2006年11月4日

小林友依
pdf版はfood_020.pdf
今回のプログラムのねらいと概要   
 「料理教室ならお菓子作りをしたいよ」という子どもからの声と、甘みは砂糖だけの特別なものではなく、野菜にも存在していることに子ども達に気づいてもらいたいということで、今回の教室は野菜の甘さを最大限に活かした、砂糖を使わないクッキー作りを子ども達に挑戦してもらうことになりました。
 まず子ども達には日ごろ手にしているジュースにはどれだけの砂糖量が含まれているのかを気づいてもらうために、市販のジュースと、そのジュースに含まれている砂糖量と同じ濃度の砂糖水を飲んでもらい、どちらがより甘く感じるのか、また糖度が同じでも、どうして甘さの感じ方に違いが出てくるのかを考えてもらうことから始まりました。
 「同じ砂糖量の水ですよ」と説明しても、子ども達は驚きつつも疑っている様子。そこで活躍したのは糖度計でした。糖度計を見るのも触るのも初めてのようでわくわくした面持ちで子ども達は測定ボタンに触れ、ジュースと砂糖水のそれぞれ出てきた数字を見ては、子ども達の疑いが晴れ、さらなる驚きに変えることになりました。
 各種のジュースに含まれている砂糖量をスティックシュガーで見せたり、1日分の食事モデルから各食事の総カロリーと総砂糖量を見せ、ジュースを取り入れたらどうなるのかをパワーポイントを活用して表示したりしながら、何気なくとっている食事にどれだけの砂糖が含まれていて、気づかないうちにどれほど多くの量が摂取されていることかを気づいてもらいました。
 砂糖のとりすぎの危険性を説明した次は、手作りクッキーの食べ比べです。砂糖を使わない野菜のクッキー2種と砂糖を使ったクッキー1 種を食べ比べてもらうことで、自分たちがどのようなクッキーを作るのかのイメージを膨らませてもらうこと、野菜のおいしさをクッキーの中で感じてもらえること、クッキーの材料は何を使っているのかを考えるきっかけになるようにしました。
 「クッキーの材料は何を使いますか?」という質問に、子供たちは、先ほど試食したクッキーをヒントにしたり、クッキー作りを体験したことのある子はその体験を思い出したりしながら、発表してくれました。子ども達はあっという間に材料を言い当ててしまい、続いて用意してあったクッキー作りの作業工程についてのクイズへ。作業工程はクッキー作り最中の写真をいくつか用意し、並び替えをするというクイズ形式です。中にはクッキー作りには行わない作業の写真も用意しておきました。パネルはそのまま掲示しておき、子供たちがクッキー作りをしているときにいつでも振り返ることのできるようにしておきました。
 続いて子供たちを師範台に集め、砂糖を使ったクッキー作りの実演をしました。作業工程をただパネルで言い当てるだけでは少々記憶に残りにくいので、実演を通してより深い理解ができたと思います。また、作業中の注意などもここで説明しました。子ども達はしっかりと耳を傾けてくれていて、質問があれば問いかけてきてくれました。
 クッキーを焼いている間に、小麦の性質の説明や小麦を使った食品には何があるのかを映像を使っての説明をしました。子供たちには体験実験として小麦の特性であるグルテンを取り上げ、グルテンとはどのような特性があるのか、どのような条件がそろったときにグルテンが形成するのかを体験してもらいました。また、炒めた小麦に水を足してこねるとグルテンが形成できるのか、という実験も行いました。そのほかに、小麦粉を炒めた状態とそうでない状態の小麦粉を使ったホットケーキ作りをし、焼きあがったホットケーキの中心の高さの比較をして、なぜ高さに違いができたのかを子供たちに考えてもらいました。
 野菜は甘いかどうかを検証する実験では、野菜を生で食べ、また種々の加熱によって甘さの感じ方の違いを体験してもらいました。加熱の種類やそれぞれの特性を知る、また野菜に対しての過熱の意味や野菜が持っている酵素の働きについての理解を深められるようにしまし
た。
 基本的なクッキー作りの確認ができ、野菜の甘さを体験してもらった後、子ども達にはいよいよ自分たちで砂糖を使わないクッキー作りに挑戦してもらいました。野菜は人参、ブロッコリー、玉葱、ホウレン草の4種類です。それぞれの野菜の甘さを最大限生かせるような加熱方法や切り方、クッキーの生地にどのように混ぜるのかなどを考えてもらい、仕上げてもらいました。子ども達の個性が現れ、どのクッキーにも工夫が凝らされ、驚きや面白さを視覚的にも、また食べても感じることのできるものとなりました。子ども達に仕上がった後にどのように作ったのかを発表してもらいました。とても誇らしげに満面の笑みで発表してくれたのがとても印象的でした。
 今回もさまざまな実験を体験し、理解を深めていただけるようにクイズや解説をおこなってきました。甘みに対する味覚を広げ、砂糖なしでもおいしいお菓子ができてしまう面白さや野菜甘みはどうすれば引き出せるのか、またどうして甘くなるのかの発見ができ、砂糖の危険性、砂糖との上手な付き合い方などがわかる教室となったことを願います。
教室を実施して   甲斐陽子
 今回の実験では子ども達が終始飽きることなく、実験や進行役の小林さんの話に興味を持ち参加してくれました。その中で特に子ども達の反応が良かったと感じたものは、市販のジュースに含まれている砂糖の量を示す実験と子ども達自身に行ってもらったクッキー作りでした。
 市販の製品にはどのくらいの砂糖が含まれているかを子ども達に示す実験では、まず砂糖と水だけで作られた、糖度10% の砂糖水と、お店で売られている同じく糖度10% のオレンジジュースの、子ども達による飲み比べが始まりました。子ども達はオレンジジュースに対しては何の抵抗もなく普通に飲んでいましたが、砂糖水を飲むと、教室全体から一斉に「甘い」「甘すぎる」「甘すぎて飲めない」などの声が。その後、オレンジジュースと砂糖水に含まれる砂糖の量が同じだということを糖度計を使って示すと、子ども達はそれぞれに信じられないといった驚きの声を上げていました。また、市販の乳酸飲料、炭酸飲料、スポーツドリンクなど 500ml のペットボトル1 本に含まれている砂糖量が、スティックシュガー何本分に相当するかを示すと、子ども達からは再び驚きの声が。また、このときは子ども達だけでなく、後ろに座っているお母さんやお父さん達からも「え、こんなに入っているの」といった、驚きの声が聞かれたり、唖然とした様子が見られました。この実験では、身近にあるスティックシュガーを使用して視覚で砂糖量を訴えることを行いました。このことが、子ども達やお母さんやお父さんたちの興味や驚きを、強く引き出すことができたように思います。
 最後に行った野菜の甘さを利用したクッキー作りでは、子ども達が4 グループに分かれてブロッコリー、人参、玉葱、ほうれん草の中から、1 グループ1 種類ずつ野菜を選び、その野菜を甘さが十分に引き立つように焼く、煮る、炒めるなど調理して、クッキーの生地に混ぜ、クッキーを作りました。
 まずは野菜をどのように加工するかを班で話し合いました。子ども達からは「細く切ったほうがよい」「「炒めるのが良い」「すりおろしたほうが細かくなるよ」など意見が出てきました。このとき、どうすれば野菜の甘さを引き出せるのか? という観点からだけでなく、自分たちがどういう作業をしてみたいかなど、そういった興味から野菜の加工の仕方を選び取っている感じも受けました。ブロッコリーのグループではブロッコリーの一般的な調理法が「ゆでる」というものから、即座に「ゆでる!!」という意見が出てきたようです。また、中には栄養面のことを考えて、人参の皮をむかずに調理することを選択した班もあり、子ども達はさまざまな角度から野菜の調理方法を選択していました。
 実際に作業に入ると「野菜を切りたい」「炒めたい」など、調理そのものにものすごく興味を持ち、自分たちでいろいろなことをやってみたいといった感じで、楽しんで作業をしているのが良く伝わってきました。この時の作業は、どのグループも作業を分担したり、全員で代わるがわるに作業を行ったりと、高学年の子供たちやクッキー作り経験者を中心に、素晴しいチームワークでスムーズに作業をすることが出来ました。子ども達の中には、はじめは砂糖を使わず野菜を使うクッキーに戸惑いを持った子どももいました(特に生地を丸めるときの手触りや色などに)。しかし、実際焼きあがってきたクッキーを見て、試食をするとそれぞれ自分の班のクッキーが一番おいしいと自信を持っている子ども達の気持ちが伝わってきました。自分のクッキーの試食をし終えた後も「私達の作ったクッキーをもう一度食べることが出来ないの?」と尋ねてくる子がいました。自分たちで”考え”、作り上げたものだからこそ、そのおいしさも、ただおいしいというわけではなく、愛着心もあったのかもしれません。この実験で経験した、自分で作る楽しさや喜びを普段の食事づくりにも是非活かして欲しいと思います。
 最後に、今回実験に集まった子ども達は小学校1 年生から中学校2 年生までと年齢に幅がありました。ですから、進行役の小林さんが行う説明のレベルをどうしたらよいのかで悩みました。実際、小学校1、2 年生には少し難しい内容もあったかもしれません。
 しかし、グループのみんなで協力し合い、作業を進めていくという点では、この年齢の幅が逆に良かったように思います。年齢が高い子が自然と小さい子をフォローしたり、リーダー的な存在となりグループを引っ張っていったり、または影ながらグループを見守り、さりげなくまとめていたりという姿が見られました。小さい子ども達は、こういったお姉さんやお兄さんたちの行為のおかげもあり、のびのび作業をしていたように感じました。また子ども達の個性が活かされ、どのグループもチームワークが良く、まとまりがあったようにも感じられました。
◆今回の実験のポイントや、実験からわかることなどをご紹介します。
市販のジュース・おやつの砂糖量はどのくらい?
100% オレンジに砂糖?
 果物から絞った果汁を濃縮して保管・運搬し、製品化するときに水などを加えたものを濃縮還元果汁。保管や運搬の費用が安くなるのと、果物の収穫時期以外にも製品化できるなどの利点があり濃縮される。しかし、元の果汁の体積と製品の体積が同じ場合に100% と表示しているため、原材料に砂糖が入っていても100% と表記されている恐れもある。
他に砂糖が含まれている製品はあるの?
 表示ラベルを注意してみると多くの製品にも砂糖が使用される。
レトルト食品、納豆、食パン、ドレッシングやめんつゆなどの調味料、ハムなどの加工食品、ファーストフードなどにも含まれ、知らないうちに砂糖を過剰に摂取している恐れがある。
グルテンとは何?
 小麦粉は、約70% のデンプンのほかに10 ~ 13%のタンパク質を含み、このタンパク質の大部分はグリアジンとグルテニンという2 種類のタンパク質で占められる。
 この二種類のタンパク質はともに水を吸い込むと膨潤し、特有の粘りを出す性質を持ち、小麦粉に水を加えてよくこねると、グリアジンとグルテニンは水を吸い込んで結合し、分子が網の目のように絡み合って、ゴムのように弾力のある塊になる。このタンパク質の塊をグルテンという。
小麦粉に塩を入れるのはなぜ?
 食塩を加えると食塩がグリアジンを溶かす性質を持っているため、コシの強い弾力のある生地ができる。食塩の存在はグリアジン分子の粘りを出そうとする力を増すのに役立ち、網目状組織を緻密にする作用がある。また食塩にはたんぱく質分子の集まろうとする力(凝集性)を高め、変性を促進する作用がある。焼き魚、ゆで卵の他、魚のすり身に入れる塩もその例である。
 食塩はパンだけでなく、お菓子、麺類など、すべての場合に用いられる基本的な添加物。しかし、てんぷらの衣やケーキ、シュークリーム、パイなどのように、グルテンの形成をむしろ抑えたい場合には食塩は使用しない。
バターや砂糖がグルテンの形成を阻害するのはなぜ?
 粉の粒子のひとつひとつが油で覆われた状態になり、グルテンと水がくっつくのを妨げてグルテンが生成しないように働く。
 ケーキに砂糖を入れるのは、甘くするためという理由だけではない。砂糖というのは水を抱え込む性質が高いため、グルテンの分の水分を横取りし、グルテンができるための条件である「水を加える」ことの邪魔をする。
小麦粉を炒るとどうしてグルテンが形成されない?
 グルテンというタンパク質だけに限らず、タンパク質は加熱・撹拌・味つけ(塩や酢)などによって、分子の結合が壊され、結合を弱められたりする(タンパク質の変性)。たとえば、生卵をゆで卵と言う形に変化させることは、加熱によるタンパク質の変性であり、小麦粉からグルテンを作ることや卵白をメレンゲにすることは、撹拌によるタンパク質の変性にあたる。
 余談だが、小麦粉を炒めて作るホワイトソースの粘りはグルテンの粘りではない。小麦粉のデンプン(多糖類)を利用する調理である。デンプンは水を加えて加熱すると糊化して粘りが生じ、これがホワイトソースのとろみとなる。
焼くと炒めると煮るでは素材へ影響はどのように違う?
炒めるということ
他の調理との違い: 油を加えることで材料に油が絡み、フライパンに接する面積が増え、素材の温度がすばやく、かつ高温に上昇できる。
素材の影響: 余計な水分を弾き飛ばし、素材の持ち味や歯ざわりを残す。また、素材が油に覆われるので、ビタミンの損失が少ない。
野菜が甘く感じられるのはどうして?
 野菜の呈味成分は、糖・有機酸・アミノ酸・核酸関連物質などがある。一般に野菜が持つ糖量は低く、2% 前後から6 ~ 7% くらいであるが、果糖(砂糖の1.5 ~ 2 倍の甘さ)、ブドウ糖(砂糖の5 ~ 8 割の甘さ)及びショ糖が主であって野菜の種類によって甘味が異なる。
 たとえば、人参の糖含量は約3% だが、ショ糖含量が最も高く、果糖がつづく。
他の野菜はどのくらい糖質を含んでいるの?
 糖質(炭水化物)は、単糖類(ブドウ糖、果糖など)、二糖類(ショ糖、乳糖、麦芽糖など)、多糖類(でんぷん、グリコーゲンなど)の3 種類に分類される。
 次のページの表を参照。
どうしたら野菜が甘くなるの?
野菜は水分の多い野菜、デンプン質の多い野菜、苦味や辛味成分の多い野菜など特性を持ち、加熱によって甘くなるには、それぞれの特性と深く関わっているようである。
 たとえば水分の多い野菜は加熱によって水分が蒸発し、野菜本来が持っている糖の濃度が上昇することであり(その1)、デンプン質の多い野菜では、デンプンを糖に変える酵素の働きが深く関わり(その3)、苦味や辛味成分の多い野菜は加熱によりそれらの成分の分解が起きて、甘味の強い成分に変化しているようである(その2)。
(その1)加熱することでどうして野菜は甘くなるの?
 加熱による水分の蒸発で糖濃度の上昇や過熱による細胞の破壊や軟化によって生ずるため。
(その2)玉葱が甘くなるのは?
 玉ねぎの刺激成分である硫化アリルなどのイオウ化合物は非常に揮発性の高い成分で、玉ねぎを切った時に涙が出る原因。この硫化アリルは、加熱すると非常に糖度の高いプロピルメルカプタンという物質に変化するため、玉ねぎを加熱することで甘くなる。その他にも、大根の辛味成分のジアリルサルファイドもまた加熱することで分解し、甘味をもつメチルメルカプタンに変化して甘くなる。
(その3)サツマイモやカボチャなどが甘くなるのは?
 野菜が持っているデンプンを糖に変える酵素の働きによって甘くなるため。この酵素は55 ~ 75℃の温度帯で活発に働き、この温度帯が長くなるように調理することで、デンプンから糖分が大量に生成され甘くなる。この温度帯をすぐに通り過ぎる電子レンジなどの調理法では、デンプンが糖に変わる時間が短く、生成された糖分が少ないため、甘みは控えめになる。
ジャガイモのデンプン+ 大根おろし汁= 水あめ?
 これは大根おろしの酵素(アミラーゼ)の助けを受けて、ジャガイモのデンプンが糖に変わるため。アミラーゼは、デンプン分子中のブドウ糖の結合を切る酵素。アミラーゼが働くとブドウ糖の鎖が短くなり、その結果さまざまな長さのブドウ糖の鎖、麦芽糖、ブドウ糖ができる。麦芽糖やブドウ糖は甘いので、反応が進んでこれらの糖が充分多くなったところで煮つめると水あめができる。ただしアミラーゼは熱に弱く、65度以上になるとアミラーゼが熱変成してしまい働きが鈍くなってしまう。アミラーゼが熱変成する温度以下では、温度が高いほど、化学反応する速度が速くなる。
 大根にはデンプン分解酵素が多く含まれているので、デンプンの消化を促進し、胃もたれ、胃酸過多、二日酔い、胸やけに効果的と言われる。
砂糖を使わないクッキーのレシピは?
材料: ペースト南瓜またはコーン 70g、バター 90g
しお  少々、卵 1 個、小麦粉 110g
作り方:
1. バターをクリーム状にする
2. ペーストの野菜をバターと練り合わせる
3. 卵を混ぜる
4. 塩を混ぜる
5. 薄力粉を加えてきるように混ぜる
6. 生地をまとめて冷蔵庫で寝かす(20 ~ 30 分)
7. オーブンで焼く(目安180° C 10 ~ 15 分)
備考: ペーストの野菜は市販されているペースト冷凍加工食品や缶詰でも茹でて裏ごししたものを使用してもおいしく仕上がる。
(市民科学第15号 2006年11月)

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