「科学リテラシー育成の試みをつなぐ~学校、企業、NPOの”科学教室”の実践から」

投稿者: | 2007年1月5日

写図表あり
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「科学リテラシー育成の試みをつなぐ~学校、企業、NPOの”科学教室”の実践から」
牧尚史
サイエンス・アゴラ セッションのまとめ
0.はじめに
 近年、高度な科学技術が生活の中に浸透してきているが、一方で科学技術に対する不信感、不安感も市民の中に根強くあり、この溝を埋めることが必要であると思われる。また、科学技術の内容の専門化が著しく進み、高度になってきているため、その科学リテラシーの必要性が高まっているが、それに応えられていないのが現状である。学校でも、理科離れに対応しようと試行錯誤しているが、打開策を見出せない状況にある。この状況を踏まえて、科学技術ジャーナリズムの中で、科学を伝えて市民に様々な知識を提供するという必要性がますます高まっているにも関わらず、うまく進んでいない。国の立場からすれば、科学技術を発展させることが国力を高めるという意味で重要であるが、科学技術を適正化し、うまく発展させるためには、これまでコミュニケーションがうまく取れていなかったところを調整して意思疎通を図る必要性がある。
 一方、企業は生活を変える最も大きな力を握っていると考えられる。現在は、環境に対する配慮ということを中心にして、企業の社会的責任が問われ始めている。科学の観点からすると、技術というものは、学問である科学と生活とをつなぐものであると考えられるので、そのつなぎ目に位置する企業が、生活の側から科学・技術をとらえ直していくことを重視するべきだと思われる。また、初等教育での理科教育の担い手として、ものづくりの専門家である企業の人間が教えることによって、理科系が得意でない先生にはできないことをやれる可能性があると思われる。企業の側からしてみても、消費者のニーズを掴むという点で、メリットがあるのではないかとも考えられる。
 したがって、現在、社会貢献活動として子どもたちに科学技術を伝えていく教育活動が注目されるのではないかと思われる。結果的に、教育の枠を従来の学校教育にとらわれない形で拡大していける可能性が、企業の社会貢献活動の中に秘められているのではないかと思う。
 
1.目的
企業やNPOが運営する科学実験教室や、地域の特性を生かした体験型授業などが注目されている。学校との従来の枠にとらわれない連携により、様々な専門知を科学リテラシー育成に活用しようとする試みであり、科学コミュニケーターの活動の場としても、「地域/生活/環境」を主眼にした理科教育としても、新しい可能性を投げかけている。独自の取り組みで知られる団体が集い、その経験やノウハウを語り合い、今後を展望する。
2.発表団体
 アジレント・テクノロジー : “アジレント・アフタースクール”、”子ども科学実験教室”(NPOが主体)、
 オリンパス: “わくわく科学教室”
 協和発酵: “バイオアドベンチャー号”
 ソニー : “分解ワークショップ”
 ソニー教育財団 : ”科学の泉~子ども夢教室”
 トヨタ : “科学のびっくり箱!なぜなにレクチャー”
 読売新聞: “教育ルネサンス ことばの教室(新聞記者になってみよう)”
 リコー : “リコーキッズ・ワークショップ”
 NPO法人 地域パートナーシップ支援センター:活動全般について
 NPO法人 市民科学研究室:”子ども料理科学教室”
3.発表
<リコー:リコーキッズ・ワークショップ>
 1999年にリコーキッズ・ワークショップ(RKWS)を発足させ、その後、科学の祭典(YSF)、サイエンスキャンプ(SSC)、ティーチャーズ・ワークショップ(TWS)、理科大好き講座(RDK)といったプログラムを順次始めている。
 RKWSの連携体制は、図1のようになっている。
図1. 連携体制(出典:リコー)
 RKWSの1日コースの流れは、講義→コピー作り→コピー機の分解→まとめ、といったものである。途中、様々な実験を行う。ただし、理科好きな子どもたちを集めて行っているので、内容はかなり高度なものとなっている。コピー機は、リサイクル用として戻ってきたものを活用する。
 成功要因としては、次のようなことが挙げられる。
・ 設計部門や市場マーケティング部門などが、RKWSのテーマに沿ってPDCAを回すが、そのやり方が会社仕事の作業レベルと同じレベルで行われているので、実験機が改良されるなど、回を重ねるごとにプログラムが改善されている。
・ リコーグループ各社との連携などを通して、各回10人以上の社員ボランティアが参加しており、OB・OGも参加している。
・ (仮説)事業領域に近い社会貢献活動をすることによって、企業のリソースを用いて子どもたちと正面から向かい合える。これは、内部的な継続性もあり、外の人にとっても分かりやすいので、これが企業に対する信用・信頼性を高める最良の方法なのではないか。
(質疑)
Q:参加者の公募の方法は?
A:日本科学技術振興財団に運営を任せており、そこが募集を行っている。したがって、一応インターネットでも公募しているが、サイエンス友の会の子どもたち、教育委員会や学校の先生方のルートを通してやってくる子どもが基本的には多い。
  開催頻度がもっと多くなれば、様々なパイプを通じて公募をかけることができるようになると思うが、まだ開催数が少ないのでそこまではできていない。
Q:参加希望者と定員とのバランスは?
A:地方の場合は特に、2倍、3倍の倍率である。ただし、参加希望者は、小学生が多く中学生が少ないので、6:4あるいは7:3の割合で小学生を多く参加させている場合が多い。
<オリンパス:わくわく科学教室>
2003年4月に活動を開始した。オリンパスの専門である、「光」に関する体験学習を行う。現在までに16回の科学教室を開催しており、参加者数は約4000人、スタッフ数は延べ約650人に上る。参加者数はその時々で異なり、少ないときで100名程度、多いときで350名となる。
科学教室のメニューや、これまでの活動の紹介はこちら
→http://www.olympus.co.jp/jp/event/wakuwaku/
 この活動の特徴としては、社員の自発的活動であること、会社がバックアップしてくれることの他に、「参加者全員がわくわく」するものであるということが挙げられる。具体的には、
 子供達     → 科学の面白さ、不思議を体験
 保護者、先生 → 活動が有意義である満足感、気づき
 スタッフ → 腕の見せ所、ふれあい、社員としての誇り
があるということである。特に、スタッフのための内覧会を実施することにより、子どもたちだけの教室に終わらせないように配慮している。
 この活動は、新聞、学会、地元ケーブルテレビなどの社外のメディアに数多く取り上げられた他、社内メディアでも様々なものに取り上げられており、それも活動を後押ししてくれている一つの要因であると感じている。 
(質疑)
Q:学校の先生と話をする中で、実験内容や実験方法をこうしたほうがよいのでは、といった提案はあるか?
A:最初は丸投げに近い形で、楽しいからやってほしいという感じであるが、回を重ねるごとに、勉強をやってほしいと言われることはよくある。すなわち、最初はサタデースクールで教室を開いて、次は授業の一環としてやってほしいと頼まれるようになることが多い。
Q:一度に大人数を相手に教室を開いているが、対象は1学年なのか?
A:小学校の場合は全校が対象であり、全校生徒の4割以上がいつも来る。
Q:その大人数を相手に、教室をどのように運営しているのか?
A:ブース形式をスタンプラリーで回るという形式にしている。すなわち10個程度のイベントを各教室に用意して、子どもたちがイベントを終えるとスタンプラリーカードにはんこを押すというものである。各ブースにはイベントを行うスタッフを配置する。このことにより、空いているところから子どもたちが回ることになり、大体の子どもが、保護者や先生の取り仕切りの元、午前中に全てのイベントを終えることができる。
<ソニー:分解ワークショップ、ソニー教育財団:科学の泉~子ども夢教室>
 ソニーは設立当初から科学教育に何らかの形で会社として貢献できないか、ということで様々な活動を行ってきた。現在も、教育分野はソニーの社会貢献活動の中でも大きな位置を占めている。社会貢献活動の方針は、会社のリソース(技術・人材)を生かせる分野で時代や社会のニーズに応える活動を行うというものであり、ソニーグループ各社、ソニー財団のそれぞれにおいて、多種多様な取り組みが行われている。今回の発表では、それらの活動の一つである、”分解ワークショップ”と”科学の泉~子ども夢教室”を紹介するという形になっている。
 分解ワークショップは、2001年に世田谷の「生活工房」(ソニーのOB、OGが子供向けワークショップの企画アドバイザーをしていた)の夏休み企画としてスタートした。そして、2005年からは、お台場にあるソニー・エクスプローラサイエンスで年2回開催されるようになった。この活動の目的は、モノの仕組みを知ってもらうことや、親子で一緒の作業を行うことにより、親子のコミュニケーションを深める機会としてもらうことなどである。このプロジェクトは、エンジニアの社員の中でも人気プロジェクトであり、リピーターも多く、ボランティアも抽選で決めるという形になっている。
科学の泉~子ども夢教室は、2005年にスタートした。この主催者であるソニー教育財団は、設立当初から、小・中学校対象を対象に広く助成活動を行っており、次世代をリードしていく子どもたちの育成も視野に入れたプログラムとして、この教室を開催することとなった。この教室は、ノーベル化学賞を受賞した白川英樹氏を塾長としたもので、「自然に学ぶ」ということをコンセプトとしている。5泊6日の宿泊学習生活の中で、自然の中から自分たちで主体的にテーマを見つけ、その解決方法も自分たちで考えていくことにより、子どもたちが長期間、問題解決に主体的に関われるようなカリキュラムとなっている。その中で、講義や実験も組み込まれており、最後にグループごとに発表する形となっており、かなり密度の濃いプログラムだと言える。また、プログラムの趣旨に賛同した学校の先生方が指導員として参加しているので、その先生方に対しては、子どもたちの探究心を引き出すような授業づくりのヒントをこのプログラムの中で見つけてほしいと考えている。
 
(質疑)
Q:”科学の泉~子ども夢教室”において、ソニーがやっているということを主張する場があるのか、あるいは、全くの裏方に徹して支えているのか、関わり方を教えていただきたい。
A:基本的にはソニー色は出していない。強い意思があって、あえて出さないということではないが、白川先生のコンセプトを大切にすると、結果的にそうなっているということである。ただし、今後ソニーのボランティア社員が何らかの形でサポートすることはできないか、ということについて現在考えている。
Q:多くのこのようなプログラムは、できるだけ広く多くの子どもたちに参加を募って、知識を広めたいということが前提となっていると思われるが、全人格的な育成をするといったことに関しては、個人に対して継続的にフォローしていったり、知識の段階に合わせて新しいプログラムを提供していったりということも、一方では考えられるが、そういったことも検討はしているのか?
A:かなり密度の濃いプログラムなので、このプログラムを広げていくということは難しいと考えている。次のステップへということに関しては、同窓会のようなものを企画して、参加した子どもたちにまた集まってもらうということを継続して行っていきたいと考えている。そして将来的には、参加した子どもたちが高校生、大学生になったときに、こういった塾をサポートしてもらいたいとも考えている。今年の春には、去年の子ども夢教室の参加者が集まった際、自分たちがその後に行った研究活動の報告を行った子どもたちもおり、そうしたことを通じて、共に成長していきたいと考えている。
Q:その際に、プログラム開発、インターバル、あるいは人数といった設計があると思うが、それについては具体的に何か考えていることはあるのか?
A:現在、参加人数は30人であるが、教育財団のスタッフがかかりきりで活動をしており、また夏休みとなると実施場所も限られてしまうので、今のところは、現在の形を継続していこうと考えている。理想的な希望を言えば、他の地域でも同じような活動が行われるような広がりが出てくればよいと考えている。
Q:参加者の応募方法と費用負担について教えていただきたい。
A:応募方法に関しては、まだ模索中であり、教育財団が支援している先生方(全国の小中学校の、理科に関心の高い先生)のネットワークを通じて、学校でこの活動に興味を持った生徒を出してもらうということが主な形となっている。公募もしているが、参加人数が限られているため、大々的に公募をしていいものか模索している。参加費は2万円となっている。
<アジレント・テクノロジー:>
 アジレント・テクノロジーの社会貢献活動における重点分野は「科学技術の振興と健全な生活環境への貢献」ということであり、子どもを対象とした科学実験教室の開催、大学への製品の寄付、環境への取り組み、高校生の科学コンテストの開催、従業員の募金活動、そしてNPOへの活動費の助成といった様々なプログラムを展開している。今回の発表では、子どもを対象とした科学実験教室について紹介する。
 大きく分けると2種類の教室を開催しており、子ども科学実験教室(サイエンス・ワンダーランド)と、アジレント・アフタースクールに分けられる。
 サイエンス・ワンダーランドは、NPOに実験教室を開催してもらい、会場をアジレントが提供するという形である。こうすることにより、アジレントではできないような、最先端・ハイレベルな実験教室をプロの技を駆使して開催してもらえるとともに、アジレントとしても、従業員が家族で楽しんだり、方法を学んで社員ボランティアがレベルアップしたり、ボランティア活動が広がったりといったメリットもある。
 アジレント・アフタースクールは、アジレントが実験キット(現在14種類)を無償で提供して、それを用いてアジレントの従業員、ボランティアグループが、学校や公共施設、サタデースクールにおいて実験教室を開催するという形と、さわやか福祉財団の協力の下、実験教室を開催するNPOを募り、アジレントは実験教材を提供すると共に指導をして、実験教室を開催してもらう形の2つの形にさらに分けられる。このことによって、より多くの子どもたちに実験教室に参加してもらうことが可能になっている。実験キットの特徴としては、電気、生物、化学、物理、地学など様々な分野のものがあり、ストーリーを持たせたり、ゲーム形式にしたり、競争させるものにしたりするといった工夫をしている。
 2006年度における参加人数は、アジレントが実施しているものでは2142人(スタッフ476人)、さわやか福祉財団のもので、3540人(スタッフ1329人)という状況である。
 また、定期的に開催しているところにおいて、1年経過した後に、子どもたちの行動の変化についてのアンケートを保護者に行った。そうしたところ、
 質問が多くなった:9名
 物事をよく観察するようになった:8名
 テレビや本の傾向が変わった:5名
 意見をよく言うようになった:4名
といった変化があったということであった。
 実験教室の後に子どもたちのどのような行動が見られたか、という質問に対しては、
 家族で再実験をする:29名
 子供が実験について説明や感想を言う:
毎回:11名、面白かった時:8名、時々:3名
 家族で実験について話し合う:8名
というように、ほぼ全員の子どもたちが、家に帰った後も実験のことを話題にしている。
 このようなアンケート結果からも、実験教室を開催することによって、子どもたちの理科に対する関心も大きくなると言えるのではないかと考えられる。
(質疑)
Q:開催頻度や参加者数がとても多いことは素晴らしいと思いますが、会社としての目標として、規模を拡大していくことは考えていますか?
A:人数的な目標は持っておらず、たくさん教室をこなすというよりも、40人を超えないクラスで、子どもたちとインタラクティブに、会話を楽しみながら進めていくということに重点を置いてやっている。ボランティアの人数については目標を持っており、この実験教室に限らず、何らかの形で全従業員が社会貢献をしている状態にしていきたいと考えている。この実験教室でも、できるだけ参加者が多くしようとしているが、現状ではまだ1割程度に留まっている。
<読売新聞: 教育ルネサンス ことばの教室(新聞記者になってみよう)>
 この活動は、NPO法人「企業教育研究会」(大学教員と、学生からなるNPOで、企業の様々なリソースやノウハウを学校現場に導入して、学校現場を活性化しようという目的を持って活動している。)と意見交換したことがきっかけで、2年前から始まったものである。意見交換をする中で、普段記者として当たり前のこととして行っている、インタビューをする、人から聞いた話を元に原稿を書く、あるいは見出しを付ける、といったそういう仕事こそ面白く、学校現場で教えるべきではないか、という話になった。NPOの第三者の目を通じて自分の仕事の特長の再発見ができたと同時に、特別な取り組みではなく、「普段の当たり前の実践」こそ、説得力があり、さらに他者の役に立つ、という気づきがあったと言える。
 また、この活動を行う中で感じたメリットは、以下のようなものである。
 新聞記者が日常的に取り組んでいる「聞く」「話す」「読む」「書く」といったスキルが教育現場で生かすことができ、なおかつ学校現場の既存のカリキュラムに移入が可能である。
 プロの技術を見せることにより、子どもたちに刺激を与えることでキャリア教育的な側面が表れる。
 教える側の社員も楽しめる。
 第三者であるNPOと協調することにより、自分たちのやっていることをただ見せるような、独りよがりの授業にならず、第三者の目から見て、子どもたちのための授業になるように修正してもらいながら、授業を進めることができる。
 実際の授業は、担任、NPOスタッフ(学生)、記者とで進める。1時間目に記者がデモンストレーションを行ってコツを伝授し、2時間目に子どもたちが実践して、成果を確認するという形である。内容は、「インタビュー」、「記事を書く」、「見出しをつける」というものがある。これらのプログラムは、以下のような学校現場の要望を踏まえたものとなっている。
 校外学習、事業所訪問、職業体験ブームだが、「まともに大人と話せない」「事前に用意した質問しかできない」といった問題点があるため、基本的なコミュニケーションのトレーニングが欲しい。
 情緒的な作文ではなく、客観的な報告文を書く技術が欲しい(既存の学校教育では軽視されていた分野)
 読解力の低下が大きな問題になっているので、情報を取り出す力、解釈する力を付けるような授業をして欲しい。
 現在までに、23の学校(17小学校、4中学校、2高校)で、延べ114クラスの授業を行っており、授業を受けた生徒数は3000人を超えている。授業を行った地域も、宮城、千葉、東京、埼玉、神奈川、新潟、京都、大阪、奈良の1都2府6県と全国にまたがっている。
 学校からの評価として具体例を挙げると、以下のようになる。
 これまでに作文がまるでダメだった子どもが嬉々として記事を書く姿にびっくりした。
 特別支援の必要な児童らが意外にも積極的に授業参加していた。外部の人間が来る刺激があるのではないか。
 教師から「普段、授業ではやらないタイプの言語技術の授業で、目からウロコ」との声があった。
 内容が高度で難しいのではないか、評価が難しいのではないか。
 今後の課題としては、実践を増やす際に生じるマンパワーの限界はどうするか、教材化・マニュアル化をいかにしていくかというものがある。また、学校によって企業に対する要望が異なるため、それらを拾い上げて授業を行わなければならないが、それぞれの要望について企業が直接話し合っていると、いくら時間があっても足りない。しかしこの課題に関しては、NPOが間に入って調整してくれることによって、最小限の時間で授業を行うことができるのではないかと思う。
(質疑)
Q:インタビューの授業の前段として、人の話を聞くというのは、興味を持つことから入るのが当然の流れだと思われるが、その人についてこういう興味を持たせて、「このようなことについて聞きたい、だからこういう質問を考えた」といった道筋を作るようなサジェスチョンをどのように行っているのか?
A:当初は、子どもたちをいかにやる気にさせるかについて思案していたが、学校の保護者や地域で働いている人を取材対象としてインタビューを実際に行ってみると、知らない大人が目の前にいることだけで驚いて興味を持つというケースが多かった。当初は、インタビューするにあたって、詳細なプロフィールを書いてもらって事前に紹介していたが、そうすることによって、子どもたちが書いてあることに依存してしまった。そこで、プロフィールをどんどん減らしていって、最終的に仕事と名前だけにして子どもに質問させると、意外に活発に質問が出た。記者の仕事ぶりを見せることと、見知らぬ大人が相手というだけで、意外に子どもが乗ってくるようになるのではないかと考えられる。
   また、普通の県立高校(混乱校に近い。茶髪・ピアスは当たり前)でも授業をやったが、保護者やOBといった地域の方に来ていただいて、実際にインタビューしてみると普段目立たない子が積極的にやっていたり、授業もまじめに受けていなかった子が面白がってやっていたりした。どんなところでも、実際にやってみると、意外に最初から感心を持つという印象を受ける。
コメント:リコーでも似たような取り組みが始まっている。お客様相談室のベテランに、電話の受け答えだとか、相手の本音を引き出すテクニックといったようなことについての授業を学校で行った。そうすると、意外に子どもたちが結構興味を持って実践していた。こういったことから、意外なものでも子どもたちは興味を持つと思われるので、色々な切り口で授業はやれる可能性があると思う。どの会社でも、本気の大人でやって見せると、子どもにとって驚きがあり、活性化につながると思う。
<市民科学研究室:子ども料理科学教室>
(質疑)
Q:最後に”だしの秘密に迫る”教室を現在開発中とあったが、うまみ、だしというテーマは、とても子どもの興味をひくと思う。ただ、だしをどのように説明すればよいのかが難しいと考えられるが、現在の授業づくりの方向性、状況を教えていただきたい。
A:現在は、だしの相乗効果に注目している。こんぶを煮立てただしと鰹節を煮立てただしを、足しただけでは相乗効果は生まれないのはなぜか?というところから入っている。また、乾物がなぜうまみを増すのか、ということにも注目している。例えば、干ししいたけを電子レンジで乾燥させるのと、天日干しをするのとでは何が違うのか?といったことも考えている。
  また、味覚教育というものもあり、だしをどこまでうすめると美味しさを感じ分けられなくなるかといったこともやろうと考えている。
Q:教室のやり方についての質問なのであるが、親御さんは横から見守るという形なのか?子どもと一緒にやる、あるいは、大人は大人で興味を持つような発展的な内容のことを隣でやる、といったことをすれば、家に帰ってからもお互いにやったことを話し合えたりできると思うが、そのようなことはあるのか?
A:今現在はないが、親御さんからは自分たちも体験したいという声が上がっており、今後の課題となっている。今は子どもを対象に行っているが、内容的には高度で、大人がやっても十分に面白い内容になっている。なので、バリエーションとして大人向けに作ることはまったく問題がなくできると思う。もう一つよいこととして、作ったものを食べられるという点がある。美味しいものを作ることができ、周りの大人と一緒に食べると、喜びを共有することができる。また、アイデアとして、大人が見ていると子どもが萎縮してしまうということがあるので、別の部屋に大人を移してモニターで見るというやり方にも挑戦してみようとも考えている。
<地域パートナーシップ支援センター:活動全般について>
 総合学習の時間が本格的に始まると、予算がつかなくなると予測していたため、そこに企業をどれだけ関わらせるか、というところから始まった。お金ではなくて専門家としての知識を貸してほしい、あるいは子どもたちにプロとしての話をしてほしいということで企業回りをしたが、それがきっかけで環境に関することをしばらく行うこととなった。そのうちに、企業、学校、行政の橋渡しをしてほしいというニーズが高まってきた。そこで、地域パートナーシップ支援センターは、基本的にはコーディネータの役割を担うことになった。時には、学校にお金がないので、自らお金をつくってから学校に行くという、半分プロデューサーみたいなこともやっている。企業から見れば、社会貢献を代理で見つける、あるいはその場を作って、そこの企業のお金だけではなくて人も参加させる、という代理店のようなことを行っている。その際、企業のやりたいことを、学校の希望に合うように切り口を変えることによって、すんなり学校に企業が入れるようにしている。学校から企業に、あるいは企業から学校に言いづらいことを、地域パートナーシップ支援センターが責任を負って伝えてすり合わせるということも行っている。この他にも、企業と学校の間にNPOが間に入ることによる利点があるが、詳しくは資料を参照していただきたい。
 また、NPOはあくまでサポート役で、主役は先生である、というスタンスは必ず残す。そして先生にもその意識を持たせなければならないので、事前に先生へのヒアリングを時間をかけてしっかりと行うことにしている。そうすることによって、たとえそれまでにプログラムが完成されていたとしても、先生にしてみれば、自分の意思に沿って考えられたプログラムだと感じる。そして、企業の人が説明をしても、自分の授業の指揮の下で専門家に話をしてもらっているという意識を持つので、その授業後も、”それで終わり”ではなく、責任を持って子どもたちのケアをするようになる。
 また、地域パートナーシップ支援センターは、自然との触れ合い方の授業を教室や校庭で行うことによって、移動教室の際に、子どもが鳥の鳴き声や植物に興味を持てるようにする、というようなことも行ってきた。これも、考え方一つで先生の悩みを解決した一例であろう。
 現在は、科学技術における心のケアについて気をつけなければならないと考えている。つまり、技術・科学といったものは最先端のものでたしかに人気はあるが、心が伴わなければならないのではないか、という問題意識を持っているということである。最近では、お寺と一緒に科学教室をやろうと考えており、企業には科学の先端の部分を担当してもらい、お寺の方には”感謝の気持ち”、”命の大切さ”について話をしてもらおうと考えている。また、企業が科学教室を開こうとする学校が、都心の方に限られていることも問題視している。これは、企業が科学教室を開くことの費用対効果を考えているからだと思われる。しかし、そういった学校ではなく、クラスが1つしかないような地方の学校でも、企業の科学教室が開かれるようになることが望ましい。その方法の一つとして、企業が持っているプログラムの一部を地域のNPOに教えて教室を開催してもらう、といったことが考えられる。そのためのお手伝いはしたいと考えている。
(質疑)
Q:今後、地方では具体的にどのような活動を予定されているのか?
A:現在、岩手県の紫波町で、森と水の循環というプロジェクトを行っており、漁協の石鹸の販売ルートを作った。というのも、水の垂れ流し状態を危惧して、行政が石鹸を使わせようと考えたからである。地域パートナーシップ支援センターは、裏方に徹して石鹸の販売ルートまで作った。このプロジェクトは2007年3月に終了するが、次は沖縄に行って、大学生を巻き込んだプロジェクトをやろうと考えている。それと同時に、離島や小さな町で、子どもたちに自分たちの町の写真を撮らせて、それで絵葉書作って出させようとも考えている。そして手紙を書いた先で反応があれば、そこを通じて全国展開していくつもりである。これは現在、来年のスタートに向けて、自腹で準備している。また、このようなモデル事業では、最後に形を作って終わるものの、持続可能なものとしなければならない。そこで、最終的には、一口1万円でもいいので、地元の企業を必ず仲間に入れて、今後長い期間子どもたちの面倒を見させるようにしている。一方、自分たちにもノルマを課していて、3年で全て軌道に乗せて撤退する、あるいは3年で地元に全部引き渡すということをノルマにしている。
  
4.総合討論
コメント(地域パートナーシップ支援センター):
企業の連携という点について。東京コカコーラが、子どもたちの写生大会をスポンサーとなって開催しているが、他で展示する関係上、当初は子どもたちが書いた絵をすべて持って帰ってしまっていた。そこで、キャノンにお願いして、絵を持って家族と写真を撮って、プリントサービスを行って、持って帰ってもらうということをやってみた。また、リコーにフレームを一緒に作ってもらい、そこに絵を入れてカラーコピーしてもらって持って帰るというサービスも行っており、現在人気である。当初その話があったときは、東京コカコーラは是非来てほしいと言ったが、キャノンやリコーは、お金も出さないのにそこへ行って、そんなことまでやって宣伝させてもらっては申し訳ないと言った。そこで、地域支援パートナーシップセンターが水面下で確認を取って実行に移すこととなった。こうすることによって、仮に断ったとしても、後で顔を合わせやすくなるというメリットがある。そういう意味でも、NPOを上手く使うとよいと思う。
また、いろいろな企業を呼ぶことによって、メニューが増えて、来る人が楽しめるようになるので、こういった観点からも、今後企業の連携が必要なのではないかと思う。
Q:科学教室のプログラムを、小学校・中学校・高校という異なる年齢だとか異なる興味を持っている子どもたちに提供しているようだが、1回1回のそういった活動に関して、次に生かせるような、あるいは対象を変えたときにどう対処すべきなのかといった振り返りの際に活用できるような記録をとっているのか?
A(リコー):相対的評価とは社会的な評価であり、絶対的評価と会社内部からの評価だと考えている。絶対的評価というのは、どのように評価して改善していくかということにつながるので、そういう意味で大切なのだと思う。そのために、必ずアンケートはとっている。アンケート方式は自由回答方式で、表裏に親子がそれぞれ8行くらいは感想を書くという形にしている。それを元にして、子どもが分からなかったところを改善するといったことを行っている。
A(ソニー):活動の評価というのは、非常に課題の多いところであるが、個々の活動に関しては、アンケートという形で参加者の意見を聞くということを行っている。教育財団のような活動は、長期的な視野で見たいということがあるので、参加者の興味・関心がどのように伸びていったかというところを、経年的に今後見ていきたいと考えている。また、本日の発表を聞いて、学校教育とのつながりをどのように持っていくかが大きな課題だと感じた。企業は、自分たちにできることをやっているという印象であるが、今後は、子どもたちにうまく興味・関心を持続させていってもらえるように、もっと企業が科学教室の内容を工夫すべきではないかと思った。
A(アジレント・テクノロジー):外資系の会社であるがゆえに、ビジネスに対するインパクトが求められる。そこが、現在最も悩んでいるところである。科学教室そのものの評価はアンケート方式であり、そこから子どもたちへの効果は推し測られるが、ビジネスに対するインパクトがどれくらいあるのかという評価は非常に難しい。技術に深く関わっている企業である会社への説明として、「長期的に見れば、技術が衰退すれば市場は縮小してしまい、ビジネス縮小してしまうので、エンジニアが増えればビジネスが成立するのだ」という説得方法をとっている。しかし、そのことをどう定量的に証明するかとなると、非常に難しい。専門家に聞いても、数値化は難しいということである。こういった社会貢献の活動が、どれくらいビジネスにインパクトがあるのか、ということが定量的に示すことができれば、企業としても、もっと積極的にそういった活動ができるのではないかと思う。
A(読売新聞):授業そのものに関する評価は、詳細なアンケートをとって行っている。しかし紙に書いてしまうと、本心であるかどうかの判断が難しくなるので、その場の子どもの表情や態度といった反応を見て授業の評価をするということを大切にしている。少ししらけていたなら、何が悪かったか知るために、授業後に子どもたちにと直接話しをして、何が難しかったかなどを聞く。このように、その場で評価をして子どもの意見を聞いておいた方が、紙でアンケートをとって後で定量的に評価するよりはよいのではないかと思う。
   また、経年的に評価するということについては、全ての学校で行うことは難しいが、いくつかの学校では、継続的に授業を行って、子どもたちが本当に力をつけたか検証していきたいと考えている。
   最後に、社内的な評価についてであるが、これはやはり皆が悩んでいるところである。ただ、最近よく思うことは、子どもたちが力をつけた、良い影響を与えた、といった、相手にどれだけインパクトを与えたかということについて評価するのは難しいけれども、やる側が活性化したという実体は残る、ということである。このようなプログラムに参加した社員は、確実に自分たちがこれまでにやってきた仕事が無駄なことではなかったと再認識することができると思うので、できるだけ多くの社員に参加してもらって、仲間を増やしてアリバイ作りをしたいと考えている。定量的に評価することはできないが、「社員側がこれだけ活性化した」ということをアピールするしかない、と今のところは考えている。
Q:読売新聞が行っていることを朝日新聞や毎日新聞が聞いて、同じではないにしても、やってみようといった動きはないのか?
A:そうなれば大歓迎であるが、今のところない。先ほど、企業間の連携の話が出ていたが、現在は、各々の企業が個別に活動をしているだけで横のつながりが無く、受益者側である学校にとっては非効率な状況である。すなわち、横のつながりがあれば、どこか一つに問い合わせることによって、学校側の要求に合致する企業を斡旋してくれるというようなことが起こりうるが、現状ではそうはいっていないということである。同業者間で同じ活動をして、行ける企業が行く、というようなことになれば、楽しくなるし、みんな楽になると思うので、そういったネットワークがほしい。
コメント:企業が自分たちのリソースを使って、できる地域からできる限りのことをしようということはよく分かるし、それを子どもに経験させてあげたいという想いも伝わってきた。ただ、理科教育全体の中で見たときに、自分たちの立場がどこにあるのか、という分析をすることがまず必要ではないかと思う。そういう意味では、企業間のパネルを作るのも一つの方向かもしれないし、学校とか科学館とかで理科教育全体をどのように捉えているのかを話し合えるパネルを作ることも必要なのではないかとも考えられる。
   また、個別の科学教室の評価については、たとえば、3年とか5年計画でどういうものを目標にしてその着地点はどこなのか、10年後の着地点はどこなのか、というような絵を描いて、その到達度を測るというというのも一つの方法ではないかと思った。

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