リアルの迫力

投稿者: | 2007年6月4日

写図表あり
csij-journal 006 Wada.pdf
第17回 市民科学講座
「ICAM科学映画作品上映会~生命と映像を語り合う~」に参加して
リアルの迫力
和田雄志(未来工学研究所)
科学映画というと、その昔、小学校の体育館で大勢が座って見せられた光景を思い出す。理科が苦手だった私には、この時だけは結構楽しい時間だった。今回、北区のプラネタリウムで上映された映画会は、「生命の不思議」を中心としたテーマが貫かれていた。聞くところでは、ICAM社内には専用の電子顕微鏡があり、そこで様々のミクロ世界の映像が撮られてきたという。うごめく胃の粘膜や子宮内の生きた胎児の映像など、一体どのようにして撮られたのだろうか?最近のコンピュータ・グラフィックスとは一味違う「リアルの迫力」がそこにある。すべて創設者の武田さんの熱意から生まれでた作品群である。作品は、いわゆる科学映画として学校教育用に制作されたもの、製薬会社の職員教育用、あるいは筑波科学万博パビリオンでの上映作品など、バライエティに富む。専門用語も結構出てくるが、ナレーションで聞いただけでは理解できない言葉も多々あった。一般向けには、キャプション(字幕)をもう少し増やしてほしいと思った。最近の作品になるとコンピュータ・グラフィックスも併用されるようになり、理解が進む半面、リアル映像との区別がつきにくくなってくる。本物の映像だけが持つリアルの迫力と、バーチャルな映像の組み合わせは、功罪両面があるように感じたのは私だけだろうか。残念ながら、武田さんは病気療養中ということで、当日はビデオ出演であった。このような真面目な科学映像づくりの文化は、今後ともぜひ継承していってほしい。生殖医療、遺伝子組み換え、最先端の脳機能研究、ナノバイオなど、リアル映像だけが語れるテーマはますます増えてゆくに違いない。■
科学映画とコンピュータグラフィックス
上村光弘
 上映会では5本の映画を古い順に見せていただいたので、映像技術の変遷も含めて興味深く視聴させていただきました。
 最初の1975の作品「染色体に書かれたネズミの歴史」では、顕微鏡による動画はなく画面も暗い感じでした。一方、最後の2005年の作品「胃~巧妙な消化のしくみ」では、顕微鏡による動画もあり、明るい画面で非常にシャープな画像となっていました。面白いなと思ったのは、最後の作品にはコンピュータグラフィックス(CG)がふんだんに使われていたことでした。CGを使うことによって、説明されている仕組みを理解することが容易でした。
 しかし、CGは諸刃の剣でもあります。説明に必要な情報だけをCG化し、他の情報を削ぎ落とすことによって分かりやすさが生まれます。しかし、それは見方を固定することでもあり、CGだけでは説明以上の気づきは生まれません。こと生命現象の映像では注意すべき点だろうと思います。
 後でこの点をお聞きしてみたところ、適材適所で必要な部分に使用しているとのことでした。映像化する対象や説明すべき現象、視聴対象者によって必要性は変化すると思いますが、CGは分かりにくい現象の説明に対してスポット的な使用とし、現状のような生の映像を大切にする姿勢を今後も持ちつづけて欲しいと思いました。■
難しいことを正しく伝えることの大切さ
石渡正志
 ICAMの映画は訴える力を感じる。特に生物関係の映画では生命の尊さを「命は大事です」などという軽々しい言葉ではなく,映像とストーリーで表現している。また,ICAMの会長がビデオレターで「難しいものでもきちんと説明すれば子どもはよく理解してくれる」というようなことをおっしゃっていた。私も教師としてそれに同感である。授業の内容を簡単にすれば理科好きが増えるといった間違った教育政策に一石を投じるためにも,ぜひこのような映画を多くの人たち・子どもたちに見てもらいたい。■
探究心を満たしてくれた映画
薮 玲子
 「アイカム」という会社は知らなかった。が、ちらしに載っていた「上映作品紹介」には惹きこまれた。「ICAM科学映画作品上映会」という文字が、小学生の頃にわくわくしながら見た科学映画を思い出させた。上映会の数日前に市民科学研究室のメーリングリストに上田昌文さんが、「僕がもう少し若かったら、この会社に就職したかった」と書かれているのを読んで、なおさら楽しみになった。
 作品の感想を述べる前に、ささやかなエピソードを記しておきたい。上映会が行われた東京都北区の「北とぴあ」のプラネタリウムホールは、以前にも市民科学講座で使ったことがあり、気に入っていた。本館6階からガラス張りの空中廊下を渡った先にホールがある。当日、足取りも軽くホールまで来て、驚いた!若い受付譲たちがずらりと笑顔で並び、いっせいに「こんにちは!」と出迎えてくれたのだ。てっきり「場所をまちがえた!」と引き返しそうになる。市民科学研究室のイベントでこんなことははじめてだった。あの洗練された受付譲たちは、アイカムの正社員かどうかは分からないが、アイカムから派遣されたスタッフであることは確かなようだ。他にも上映準備をすすめる若者たちが、颯爽と働いていた。こんな爽やかな若者たちがたくさん集っている「アイカム」という会社に興味がわいた。
 5作品のうち、私が最も好きな作品は『あなのふしぎ』だ。自然界や人体や人工的な物の中にある「円形」のものを、カメラがさまざまな角度から、いろんなサイズで捉える。その美しさ、合理性、機能性には驚かされる。電気シェーバーの小さな穴は髭を剃るためにあるが、自然界にはそれとそっくりな植物がある。「穴」の延長が「管」で、そこにもカメラが入ってゆく。蟻の巣、人の消化管、都会の地下水道管・・・まったく違うこれらの管が、カメラでとらえた世界では実に似ている。こんな発見は楽しい。私はあれ以来、街を歩いていても、「円形」のものがやたら目につくようになった。
 知的な興奮でわくわくした作品が『染色体に書かれたネズミの歴史』だった。主人公は小さなクマネズミ。しっぽの組織細胞を染めると「ピンセット型」「やっとこ型」「X型」の3種類の染色体が浮かびあがる。まるでパズルのピースのように、それらの染色体がクマネズミのルーツを解き明かしてゆく。染色体数が日本のネズミは42本、ヨーロッパのネズミは38本。この謎の答えを求めて調査隊が東南アジアを巡り、仮説を裏づける結果を得る。探求することのスリルと喜びをスクリーンを通して堪能できた。
 「小粒な正統派」として好感をもったのが『胃~巧妙な消化のしくみ』だった。「蛋白質を消化する胃が、どうして胃自身を消化しないのか」という疑問に対して、映像の特性をうまく生かして丁寧に答えてゆく。胃酸の分泌のしくみがよく分かった。
 ひとつのテーマをじっくりと掘り下げるこれらの3作品に較べ、残る2作品は「盛り込みすぎ」の感じがした。
『生命~はるかな旅』は、生命を「地球」と「人間」の2つの軸を中心に取り上げた作品だが、もう少し素材(映像)を絞ったほうがいいと思う。例えば、キラー細胞が癌細胞を殺す映像、雑菌が取り込まれて細胞内に住み着く映像などが、単発的にどんどん入っている。興味深い映像だけに、ひとつひとつをもっと深く知りたいという気にかられた。詰め込みすぎては消化不良になる。胎児の体が形成されてゆく過程の映像は驚異的だった。
『 Cell Universe 』は、つくば万博で人気を集めた映像空間「Cell Universe」の記録なのか、その映像の中味の紹介なのかがよく分からない。使われている音声も気になった。1つは、部分的に映画のナレーションの役目を果たしていた万博会場でのコンパニオンの説明。コンパニオン独特の甲高い声とイントネーションが馴染めなかった。2つ目は、映画の途中で男のうなり声のような音声が続いたが、(後で考えると出産時の女性のうめき声だったのかもしれないが)意味がわからず恐怖感を覚えた。また、映画全体のメッセージとして、「愛」という言葉がドラマチックに使われていたが、上滑りの感がある。海の映像で唐突に終ったのも中途半端な気がした。
ともあれ、こんな科学映画を地道に作り続けて40年にもなる「アイカム」という会社は、私の心に強く残った。急遽入院されて来られなかった社長さんが、病院先からメッセージを映像にして届けてくださったことにも、映像にかける人の熱意を感じる。ロビーで売られていたアイカムの科学絵葉書は、季節の挨拶には使いづらそうだけれど、おもしろいので2枚買って帰った。上質な映画に接して心から満たされた一日だった。■

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