携帯電磁波の発がんリスク IARCの発表について

投稿者: | 2011年7月9日

国際がん研究機関(IARC)が5月31日に、「携帯電話から放射される電磁波の暴露によって、脳腫瘍(その一種である「神経膠腫」(こうしゅ=グリオーマ))と耳の聴神経腫瘍(しゅよう))のリスクを高めることを示す限定的な証拠がある」として、携帯電話電磁波を、「グループ2B(=発がん性の可能性がある)」に分類しました。
市民科学研究室ではこれに関連して、次の3つの文書を公開しています。参考にしていただければ幸いです。
報道記事の紹介と全体的な概説
・「2B 」の意味についての解説 (下記の文章、PDFはこちら→csijnewsletter_008_ueda.pdf
国立がんセンターが出している見解への質問状 (PDFはこちら→csijnewsletter_008_cancercenter.pdf
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国際がん研究機関「携帯電話電磁波の発がん2B評価」の意味
上田昌文(NPO法人市民科学研究室)
 5月31日に国際がん研究機関(IARC)は、携帯電話などで使用する無線周波数電磁界を「ヒトに対して発がん性があるかもしれない」(グループ2B)と評価する結果を発表しました。日本での報道の中には、コーヒーや酢漬け野菜が同じグループ2Bに分類されていることを取り上げて、「携帯電磁波の危険はこの程度」「このレベルだとリスクがあるかどうかわからない」と指摘したり、「2Bは発がん性の可能性が”possibly(あるかもしれない)”というレベルで、2Aの”probably(可能性がある)”とは全然違う」(多氣昌生・首都大学東京大学院教授)と断じたり、早々と「携帯電話を初めとする無線機器は、健康への悪影響を心配せずに従来と同様に皆様方に安心してご利用いただけます」(電波産業会)と宣言する向きもあったりで、偏った解釈がみられますので、それを正しておきたいと思います。
 IARCは1970年頃からヒトに対する発がん物質など(化学物質を主として、ウイルス、放射線、様々な混合物、暴露される状況(アルミ精錬工場)を含む)800種類以上を対象に、発がん性の評価を行い、分類してきました。その方法論は明快で、対象とする物質に関する科学論文、政府系の公式報告書、民間の信頼のできる報告書類などの膨大なデータを集め、表にみるような分類に落としこむために徹底したレビューを行います。基本原理は、「ヒトに関するデータがあれば、それを動物実験データより重視する」「ヒトでのデータがない場合、動物実験で発がん性が認められれば、ヒトへの発がん性があると考える」(ただし発がんメカニズムがヒトと動物で違うとはっきりわかれば、これは却下する)というものです。
 評価の結果は「モノグラフ」として発行され、それが現在までに100冊に達しています(今回の評価は第102巻に収録予定)。評価作業は非常に厳密で、純粋な科学的評価にこだわるがゆえに「リスク評価は行わない」「規制や法制化への勧告は出さない」という立場をとっています。例えば同じ2Bの分類に「コーヒー」と「ガソリンエンジンの排気」が入っていますが、それは、この2つが同程度にリスクがある、ということではなくて、発がんに関して同程度の科学的な証拠の強さがある、という意味なのです。リスクは、摂取や曝露の量に大きく依存しますが、IARCの分類は「摂取や曝露のし方によっては発がんをもたらす、その発がんの確からしさの強さがどの程度のものであるか」を評価しています。
 電磁波で言うと、高圧送電線下などの居住環境での曝露で小児白血病リスクがほぼ倍増することを示した、良質な多数の疫学研究があることを根拠に、IARCは2001年に超低周波磁場(高圧送電線や家電などから出る50ないし60ヘルツの磁界)を同じく2Bに分類したのですが、その結果が、世界保健機構(WHO)によるリスク評価の集大成『環境保健基準 第238巻』(2007年)に反映されました。今回の携帯電話電磁波についても、数年内にWHOは同様の発表を行うことになります。ですから私たちは、超低周波磁場と小児白血病との関連についてWHOが、「因果関係があると断定できるほど科学的証拠が固まったわけではないが、何らかの対策を必要とするほどには十分な証拠とみなせる」と述べたことが、携帯電磁波についてもあてはまるととらえるべきなのです。長時間通話による携帯電磁波の曝露が決してまれなことではない現状がある以上、今回の2B評価は、重く受け止める必要があるのです。■

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