「サイボーグに未来はあるか?」 サイエンスアゴラ2007セッション報告

投稿者: | 2008年3月3日

写図表あり
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「サイボーグに未来はあるか?」
サイエンスアゴラ2007セッション報告
和田 雄志(未来工学研究所)
最新技術を駆使した人間の身体への増進的介入(エンハンスメント)が急速に現実のものになりつつあります。いまやハイテク義足を装着した陸上ランナーが好記録を残す時代です。日本での心臓ペースメーカー装着者は30万人以上、人工眼内レンズは年間100万件以上の手術実績があります。日本が突入する超高齢化社会においては、身体機能を補完や増進する技術は、医療福祉や介護・リハビリといった既存の領域にとどまらず、社会全体を支える必要不可欠な技術となろうとしています。その反面、身体機能支援に関わる先端技術と社会との関係は未踏の分野であり、社会的ルールづくりもこれからの問題です。
 未来工学研究所では、市民科学研究室と共同して、この未解明のテーマにとりくむべく、エンハンスメント技術の研究開発者、生命倫理研究者などと数回のミーティングを重ねてきました。そのひとつの節目として、平成19年11月25日、JST主催のサイエンスアゴラ2007において、公開セッション「サイボーグに未来はあるか?―エンハンスメント技術の光と影―」を開催しました。
 セッション会場となった東京国際交流館メディアホールには、若い人や家族連れを含め100名を超す参加者で期待と熱気にあふれていました。当日の話題提供者は、身体サポート技術開発者(東京理科大学 小林宏さん)、人工心臓研究者(東京大学 磯山隆さん)、SFアニメ脚本家(攻殻機動隊を制作したプロダクションIGの櫻井圭記さん)、生命倫理学者(東京大学の金森修さん)、社会学者(東京大学の土屋敦さん)など、異分野からの参加を得て、話題提供・問題提起およびエンハンスメント技術の実演デモ(マッスルスーツおよび人工心臓)を行いました。
                    <講演者とフロアとの質疑応答>
<マッスルスーツの実演>
 セッションでの話題は多岐にわたりましたが、パネル・ディスカッションでは論点を以下の5点に集約して議論しました。
(1)治療(マイナスからゼロへ)とエンハンスメント(ゼロからプラスへ)は区別できるか?
(2)エンハンスメントで「得るもの」と「失うもの」は何か?
(3)個人の問題から社会的文脈への展開
(4)戦争と平和の技術の相克(ディレンマ)
(5)人類はどこへ向かうか(あるいは向かうべきでないか)
エンハンスメント技術は、身体機能増進という生活者にとっては極めて身近なテーマである半面、技術自体は利用者にとってはかならずしもわかりやすい技術ではないこと、フロアからは、エンハンスメント技術は「社会的文脈」の中で利用の是非が問われるべき、といったことが指摘されました。さらに、講演者のひとりである東京理科大学の小林宏さんからは、車椅子利用による下肢の機能低下など「廃用症候群」の問題が指摘されました。エンハンスメント技術は使い方次第で、身体機能の自己修復力を助長する半面、身体機能の弱体化をもたらす可能性もあり、今後、エンハンスメント技術をどう育成していくのか(あるいはデザインすべきか)が今後の課題となってきます。
未来工学研究所が2007年11月に実施した「カラダの未来に関するアンケート」(男女あわせて1180名が回答)では、治療や身体機能の回復に関わる技術(義手・義足、ペースメーカー、人工感覚器など)についての許容度(利用を認める率)は高いのに対し、身体機能を通常よりも増強する狭義のエンハンスメント技術については、許容度が低い(下図参照)ことが判明しました。なかでも「デザイナーベイビー」や「ドーピング」については、ほとんどの人が否定的です。男女差のある技術としては、「ピアス」「美容整形」「アンチエージング」については、男性よりも女性の方が許容度が高い傾向にあります。総じて、安全性が高いと認識される技術ほど許容度も高くなる傾向にあります。
現状では、ほとんどのエンハンスメント技術は、研究者・開発者主導で研究開発が進められていますが、最近は、利用者(患者、障害者、高齢者、身体過負荷労働者など)のニーズを反映した研究開発も一部で行われています(小林さんのマッスルスーツもそのような方と共同開発されています)。
エンハンスメント技術の社会的側面の調査研究については、ほとんど手つかずの領域であり、今後の継続的なフォローが求められる分野であることが再認識された次第です。
 <エンハンスメント技術の受容性に関する意識>

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