捨てないでおいしく長持ちさせるわざ ~食べ物をとことん生かす保存食~

投稿者: | 2009年4月5日

写図表あり
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報告 
子ども料理科学教室
捨てないでおいしく長持ちさせるわざ
~食べ物をとことん生かす保存食~
菊池享子(市民科学研究室・食の総合科学研究会)
(1)今の日本の食品廃棄事情
今、日本では、食べられるのに捨てられてしまう「食品ロス」が問題になっています。レストランでは食べ残しが、スーパーやコンビニエンスストアでは賞味期限が迫った、もしくは過ぎた食品が大量に廃棄されているという現状があります。食品メーカなどからの副産物や調理くずを合わせるとその量は、年間約800万トン。単純に計算すると、1日平均2万トン。お弁当に換算すると毎日300万個分のお弁当が廃棄されているという計算になります。
しかし、その廃棄量よりも上回るのが、実は家庭からの食品ゴミ。年間約1100万トンにもなります。しかもその中の約200~400万トンが食べ残しや買いすぎによる手付かずの食品という結果も出ています(2005年水産省・環境省調べ)。家庭で食品を捨ててしまう理由のいちばんは、「食品の鮮度の低下、腐敗およびカビの発生」です(農林水産賞『食品ロス統計調査報告』より)。
世界の食糧支援量は、年間590万トン。日本で廃棄される食品で食糧支援がすっかり補える計算です。
家庭でも食品を無駄なく上手に使いきる知恵を持つことが、家庭の財布にも世界にとっても幸せにつながるのかもしれません。
そこで、今回は「食品をじょうずに保存するワザ」を、教室を通して伝えていくプログラムを考えました。
(2)腐るってどういうこと?
「くさい!」「う~~~」
肉を2週間常温に放置したもののフタをあげたとたんに、子ども達から声があがります。わざわざにおいをかごうと、顔を近づける子もいます。
「今の子どもたちは、もしかしたら『腐った食品』をあまり目にしたことがないかもしれない」ということで、まずは、食品を2週間常温放置したらどうなるかを知らせるために、4日後、7日後、10日後の映像と共に、2週間後の実物を見せました。放置した食品は「玉子・にんじん・ごはん・キャベツ・ラーメンの生麺・豚肉・りんご」の7種類。冬場のせいかあまり変化のないものもありましたが、ごはんやキャベツりんごは、変色し黒い斑点が増えたり明らかにカビが生えたりと、食べられない状態であることが見てすぐにわかります。極めつけは、やはり豚肉です。フタを開ける前から強烈なにおいが漂ってきました。
常温では、そのまま放置していてもおいしく食べることはできません。そのことを押さえた上で、「キャベツ・豚肉・りんご」の3種類をおいしく保存する方法を考えてもらいます。
子ども達に保存方法をたずねると「冷凍」という声がすぐにあがります。冷凍も保存法の1つではありますが、そのまま冷凍すると味が落ちてしまうことがほとんど。そのことを冷凍した「キャベツ・豚肉・りんご」を解凍し、水っぽくなって冷凍する前とは状態が変わっていることを確認し、冷凍意外の保存法を班ごとに話し合います。
(3)どんな保存方法があるだろう
キャベツ・豚肉・りんごの3種類について保存方法をたずねたところ、「漬物にする」「焼く」「ジャムにする」など、さまざまな答えがでました。中には「干す」というアイディアも。日ごろの食卓の様子を思い出しながら、いろいろな方法を思いついていたようです。
ここで、講師から保存するための3つの基本のわざを伝えます。
保存を防ぐ方法には、酸素を抜くなどのさまざまな方法がありますが、今回は、家庭でも使えるわざにつながるよう、微生物が繁殖することで食品が悪くなることに特化した方法を伝えました。
食物には、微生物がつくことで食品はカビたり腐ったりします。
この微生物の繁殖をおさえることで、食物を長期保存することができます。
微生物は、生き物ですので、食物の中の水を利用しながら増殖します。微生物の繁殖を防ぐためには、食物の水分を少なくするという方法があります。
その代表的な方法が下の2つです
①浸透圧によって食品や微生物から水を抜く
②食物を乾燥させ水をできるだけ抜いてしまう
また、微生物の活動を抑えるために下の方法があります。
③高温・低温環境の中に置き菌の活動を抑える(加熱、または冷蔵、冷凍)
子どもたちが答えてくれた方法の中にも、上に示した基本の3つのわざを使ったものも入っていました。
この3つを確認したうえで、最初に腐らせた7つのうちの麺以外の食品の保存法をそれぞれ紹介し、実際に「豚肉」「りんご」の保存食である「ハム」と「ジャム」を講師が調理する様子を見せました。
ちなみに、2つのレシピは以下の通りです。
【ハムの作り方】
①豚肉ブロックを塩茹でし、薄く切る
②中華なべなどの底の厚いなべに燻製用のチップを入れる
③その上に数箇所穴をあえたアルミホイルをのせ豚肉を重ならないように置きふたをする(アルミホイルのかわりに網を利用しても可)
④中火で様子を見ながらあめ色になるまで10~30分ほどいぶす
【りんごジャムの作り方】
①りんごを薄いいちょう切りにする
②りんごの重さ半量の砂糖と①を入れる
③弱火で水分がなくなりジャム状になるまで煮る
④お好みでレモンを絞りいれる
(4)科学技術を用いた保存法
常温に放置しておくと腐った「キャベツ、たまご、肉。麺」などが、半年間も常温で放置できるものがあります。そう、カップラーメンです。
現代には、科学の力によるさまざまな保存食があります。
子どもたちには「カップラーメンの中に入っている乾燥したキャベツを家で作れるだろうか?」と尋ねてみました。実際は不可能で、凍結乾燥(フリーズドドライ)のための機器が必要です。
凍結乾燥は次のようなプロセスですすみます
加熱・味付け→マイナス30度ですばやく冷凍→真空に近い低い圧力で乾燥→水分(氷)が一瞬にして、水蒸気となって消える→味や食感が保たれた、軽くて長持ちのするキャベツが完成
次に、こちらで用意した袋詰めの食材の中に、「長持ちをさせるための何かが入っている」ことに気付かせ、種明かしをします。それが
  
脱酸素剤        乾燥剤(シリカゲル)
です。
このそれぞれの働きを理解するために、簡単な実験をしました。
【実験 脱酸素剤の実験】
脱酸素剤として、身近にある「使い捨てカイロ」を使います。使い捨てカイロの中身は、粉末の鉄が水、塩、活性炭に混ざったものです(他にも安定剤は保水剤を加えている)。これで、袋をあけると、
鉄 +酸素 +水 → 酸化した(さびた)鉄 + 熱
という化学反応がすすむことになり、それに伴って熱が発生するわけです。
では、本当に酸素が結びつくのだろうか?           ……(1)
酸素がなくなれば容器の中の生ものは長持ちするのだろうか?  ……(2)
を確かめる必要があります。
(1)については、1週間ほど前から、ブロッコリーやアスパラガスを2つのペットボトル容器に入れて、片方にはこの使い捨てカイロの中身を一緒に入れて蓋をしておき、もう片方には野菜だけを入れておき(蓋は開けておく)、放置します。1週間語には、目で見てかなりはっきりわかるくらいに、傷み具合(ぱさぱさになり、変色してくる)に違いが出てきます。
(2)については、教室で実際に使い捨てカイロの中身を取り出し、空のペットボトルの中に入れてしっかり蓋をして放置しておきます。30分もすれば、ペットボトルがへこんできます。容器の中の何らかの気体成分が減ったために起きる現象だと理解できます。そして、容器に入れる前のカイロの中身(鉄粉など)の重さを測っておき、容器に入れて時間を置いてから再びそれを取り出してから測ったときの重さと比べると、明らかに時間をおいた後の方が重くなっていることがわかります。このときに、1グラムの10分の1まで測れる電子秤があると便利です。
 「燃焼」という現象そのものは、小学校の理科でも習いますが、鉄くぎがさびることも、こうして使い捨てカイロが発熱することも、そしてスチールウールをガスバーナーの火で燃やすことも、反応速度に違いはあれ、どれも「鉄に酸素が結びつく」ことです。酸化と燃焼を身近なところから理解していく方法が、こうした実験だと言えるでしょう。
【実験 シリカゲルの実験】
シリカゲルが水分を吸って変色する様は子どもの興味を引きます。
       
冬場ですと、シリカゲルを室内に放置して半分ほどが薄ピンクに変色するのに1週間ほどかかると思いますが、もちろん、いきなり水を加えれば、パチパチと音をたててはぜるようにして一気に変色します(ちなみにこの反応も発熱反応で、試験管の中でこれを行い、その試験を手で握ると、ほんのり熱くなっていることが確認できます)。
 子どもたちには、水分を吸ってピンク色になったシリカゲルを、耐熱性のガラスの容器に入れてガスの火で熱してもらい、色が元に戻るのを観察してもらいました。そしてこの加熱の前後で、シリカゲルの重さがどう変化するかを測定してもらいました。水分をとばすと、かなり軽くなることがわかり、乾燥剤の働きを確認することができました。
(5)日本の伝統の保存食・世界の伝統の保存食
「保存食」とは、菌など微生物の繁殖を押さえ、老化や酸化がおきないようにし、食物のおいしさを保つように工夫した食品のこと。
今は、冷蔵庫という利器のお陰で、家庭でも長期保存が可能になりましたが、冷蔵庫がなかった時代には、先代からのさまざまな知恵で食物を保存してきました。
日本で昔からある保存方法と保存食をしていくつか紹介しました
砂糖漬け・・・ばんぺいゆの砂糖漬け 塩漬け・・・塩辛 塩わかめ
乾物・・・切り干し大根、干し椎茸、干し芋、高野豆腐
燻製・・・かつお節
これらの食品の中の一部を、実際に子ども達に見せました。干物のにおいに顔をしかめるかな?と心配しましたが、あまり見たことがない保存職に興味津々。
高野豆腐は「スポンジ」と答え、切干大根は大根であることにびっくり。ばんぺいゆも初めて見たようで、「みかんの仲間だよ」と教えると驚いていました。実際に乾物を口にさせると、するめは大喜び! 切干大根や高野豆腐、干し椎茸は「まずい!」とのこと。
上に示した保存法以外にも 酢漬け(なます など)、醤油漬けや味噌漬け(玉子の醤油漬け、魚の味噌漬け など)があり、それぞれの保存のしくみは以下の通りです。
砂糖、塩:砂糖や塩を食品にまぶすことで、浸透作用により食品から水を抜くことができます。食品からだけでなく微生物からも水を吸い出すため微生物を殺菌する効果があります。特に塩は、酸化防止や変色防止の効果もあり、その防腐効果は紀元前15世紀のギリシャでも知られていたようです。単に砂糖や塩を加えればいいというのではなく、保存可能な糖分、塩分の濃度があります。最近は健康を考えた「減塩」「低糖」のものも増えています。減塩、低糖のものは保存性が高くはないので、冷蔵庫で保存し早めに食べる必要があります。
酒、酢:果物などが発酵し酒になり、さらに発酵が進んで酢ができます。酒や酢には、強い殺菌力と防腐力があり、酒や酢の原液の中で、菌はほとんどが死滅してしまいます。
醤油、味噌:醤油や味噌には、塩分に加えアルコール分や酢酸などの酸も含まれるため、高い防腐力をもちます
燻製:サクラやブナなどの木材を熱することで出る香りの強い煙には殺菌成分が含まれています。殺菌成分で、食物をいぶすことで殺菌ができます。また長い時間いぶすことで、水分を取り除き、微生物の繁殖を抑える効果があります。また、表面を煙に含まれる物質で覆い包むことで、油の酸化を防ぐことができます。
乾物:食物自身から水分を抜くことで、微生物が活動するための水をなくし菌を寄せつけない効果があります。
世界の保存食もいくつか紹介しました
(日本と同じような保存方法の保存食)
ピクルス・・・酢と塩で漬ける
干しトマト・・・乾燥
ザワークラフト・・・塩で漬け発酵させる
ジャム・・・砂糖で漬ける
(日本には見られない工夫の保存食)
オイルサーディン・、バジルペースト・・オイル漬け
レバーバター、鴨肉のコンフィ・・・・バターを混ぜ込む、漬け込む
キムチ・チャツネ・・・スパイスをまぶす
油(オイルやバター):油で食物を包むことで、空気を寄せつけず酸化したりカビの発生を抑えたりする効果があります。ただし、油自身は抗菌力がないので、漬け込む前に食材をあらかじめ殺菌しておくことが必要になります。また、油自身も酸化するので、油も酸素に触れないよう密封することも大切です。
スパイス:スパイスは自身がもつ強い刺激成分で、微生物や害虫を寄せつけない効果があります。
(5)日本の保存食「白菜漬け」作りに挑戦!
今回のプログラムの中でもいちばん人気だったのが「白菜漬け作り」。漬物容器に詰めて帰れることを大喜びしていました。中にはあまりに白菜を詰め込みすぎてフタがしまらない子も。「こんなに簡単にできるなんて!」「出来上がるのが楽しみ」と、参加したおうちのかたからも聞かれました。
今回の料理教室では、使用した漬物容器にあわせ、次の工程で作っています
材料(1人分)
白菜 200g
塩 白菜の重さの3%(6g)
昆布 1cm(細かく切っておく)
つくり方
①白菜を3センチ幅ほどに切る
②容器の下に塩をふる
③塩をふった容器に「白菜」「昆布」「塩」の順に重ねていく
④漬物容器のふたを閉める
翌日くらいには水があがってきます(細かくカットしているため水があがるのも早い)。
浅漬けならば翌日でも食べられますが、本来の「白菜漬け」の味を楽しみたいならば4~5日まってから食べてみてください。
(6)最後はみんなで保存食を使って昼ごはん作り
今回の自分たちで調理するのは、高野豆腐、干し椎茸、こんぶの煮物と、切干大根と塩蔵わかめの味噌汁です。
コチンコチンに硬かった高野豆腐が、まるでスポンジのように柔らかくなったり、干し椎茸はいい香りがしたり、干し椎茸やこんぶ、わかめは、大きく膨らんだりと、戻した変化をおもしろがっていました。
煮物は、切って煮るだけ、味噌汁は沸騰したダシに戻したものを入れるだけ。そんな簡単な調理にいちばん驚いていたのは、実はお母さん達だった様子。「こんなに簡単に使えるんですね」「乾物って、味噌汁にも入れられるんですね」と口々に話していました。
子どもたちの一番人気は、意外にも「高野豆腐」。柔らかい感触とかむと甘辛いダシが口の中に広がるのが気に入ったようです。
(7)料理教室を終えて
身のまわりにもたくさん溢れている「保存食」や「保存の技術」ですが、あまりにも身近にありすぎて、その不思議さやすごさに気づかずにいることが多いことに気づかされます。今回の感想でも、お菓子やのりなどによく入っているシリカゲルや乾燥剤の実験を、もう一度家でもやってみたいという声が多く聞かれました。
日本には、昔から知恵として受け継いできた「保存」というわざがあります。冷蔵庫に頼りすぎず、「保存できるしくみ」を知って食品と付き合うことで、食品を無駄なく使うことができたり、自分で「食品の書未期限」を判断できたりする力につながっていくのではないかと思います。■

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