連載「博物館と社会を考える」第12回 国際博物館会議(ICOM)の博物館定義の改定と 博物館法の一部改正

投稿者: | 2022年5月12日
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連載:博物館と社会を考える 第12回

国際博物館会議(ICOM)の博物館定義の改定と博物館法の一部改正

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林 浩二(千葉県立中央博物館)

これまでの連載
第1回 科学館は博物館ですか? (2015年5月)
第2回 博物館はいくつありますか? (2015年7月)
第3回 博物館の展示は何かを伝えるのですか? その1 (2015年9月)
第4回 博物館の展示は何かを伝えるのですか? その2 (2016年2月)
第5回 博物館の国際的動向2016 (2016年10月)
第6回 科学館・科学博物館の社会的役割宣言(2017年3月)
第7回  世界科学館・科学博物館の日(2017年8月)
第8回  第2回世界科学館サミットと東京プロトコル(2017年12月)
第9回 ツールとしての持続可能な開発目標(SDGs)(2018年3月)
第10回 京都で開催された国際博物館会議ICOM大会(2019年10月)
第11回 博物館の世界的組織の環境保全と教育への取り組み(2022年2月)

 

1.  はじめに

新型コロナウイルス感染症(Covid-19)によるパンデミックは、丸2年を経過して、様相を変えつつも一向に治まりません。そんな中、ロシア軍によるウクライナ侵攻が2022年2月24日に始まり、博物館の世界も二重、三重の影響を受けています。

博物館と社会を考えるこの連載が、現実の社会と無縁であるはずはありません。そのためもあって今回は、前回の続きではなく、今まさに国内外の博物館の世界で動いている事項を取り上げたいと思います。

今回は、国際博物館会議(ICOM)の規約における博物館の定義の改定の動きと、日本の国内法である博物館法がこのほど改正されたことを紹介します。まずは関係者・関心ある方々に情報源情報を共有することを目指しました。

2.ICOMの博物館定義の改定の経緯

連載第10回では、ICOMの3年に1回の大会(general conference)である第25回大会が2019年に京都で開催されたことを速報しました(注1)。京都大会の最終日には規約の改定のための臨時総会が開かれ、激論の末に定義の改定案をその場では採決せず、「採決を延期する」ことを投票の7割ほどの多数で決議して、改定は先送りされました。

大会後、役員・事務局で混乱が起き、京都で2期目として選出されたばかりのSuay Aksoy会長と一部の理事が辞任し、副会長のAlberto Garlandini氏が新たな会長に就きました。また改定案の草案を検討した常置委員会(MDPP)は委員長と一部の委員が交代しMDPP2が立ち上がり、2020年には改めて、Museum Define常置委員会と改名され、会を構成する各委員会との協議(consultation)の方法を組み立て直して発表しました(注2)。

改定案の策定のための11段階は、2020年12月10日のウェビナーで説明されました(図1, 注3)。各委員会との間で5段階の協議を行います。新しい博物館定義のキーワードやコンセプトの提案を受け付け、分析して結果を発表してさらにやりとりし、2022年2月には協議4として、5つの改定案が発表されました(注4)。ICOMウェブサイトで公開されている5つの案はいずれも、現行の定義の延長上にあり、現行の定義と比較しやすいと思います。

図1. ICOM規約の博物館の定義の改定における協議(consultation)のプロセス
(2020.12.10のウェビナー資料から. URLは注3で記述)

 

ICOM日本委員会では、5つの案文について2022年3月18日~27日に日本委員会の会員にアンケートを行い、その結果を4月6日午後のオンライン会合で報告するとともに意見交換しました。以下で紹介する第2案は、日本委員会では概ね好意的に受け取られ、わたし自身も強く賛同します。試しに訳してみます。

 

Proposal 2

A museum is a permanent, not-for-profit institution, accessible to the public and of service to society. It collects, conserves, interprets and exhibits, tangible, intangible, cultural and natural heritage in a professional, ethical, and sustainable manner for research, education, reflection and enjoyment. It communicates in an inclusive, diversified, and participatory way with communities and the public.

第2案 (試訳)

博物館は一般の人々が利用でき、社会に奉仕する、永続的で非営利の施設である。博物館は研究・教育・考察・楽しみのために、専門的・倫理的かつ持続可能な方法で、有形・無形の文化および自然遺産を収集・保存・解説・展示する。地域社会や一般の人々を巻き込み、多様で参加型の方法でコミュニケーションを図る。

 

この第2案には、他の案には出てこない、解説(interpret)や自然遺産(natural heritage)という用語が使われています。博物館の建物の中に収まらない現地の自然の保全や、地域の景観への博物館の関与が求められるようになりつつある現在、「自然」を明示的に記述することの意味は大きいと考えます。また

“interpret”という用語は、京都大会の臨時総会(2019)で上程された改定案で採用され、わたしは注目しました。インタープリテーションは施設内や史跡・野外などでの幅広い教育的なアプローチないしコミュニケーションを意味するので、動詞interpretによって多様な活動を引き出すことが期待できます。

 

これら5つの案への賛否と意見を元に、Museum Define常置委員会はこれまでの全協議プロセスの報告書を作成し、最終案が発表され、さらに8月にはチェコ共和国のプラハで開催される大会の臨時総会で採決されることになります。なお同時に博物館の倫理規定も見直しのプロセスが動いています(注5)。

最終的にどんな定義改定案が提出されるか、さらに臨時総会でどんな議論が交わされるか、果たして採択されるかどうか、注視していきたいと思います。

 

3. 博物館法の一部改正にむけて

博物館法(1951)については、連載第2回で言及しています。成立から70年が経過し、これまでも色々と課題が指摘されてきました。小さな改正は20数回にわたって行われていますが、今回は図書館法・社会教育法などと一括ではなく、単独の改正で注目されています。

ここでは、最近の動きの情報を列挙します。

・文化芸術振興基本法(2001) 平成13年法律第148号 (議員提案) 注6

第26条 国は,美術館,博物館,図書館等の充実を図るため,これらの施設に関し,自らの設置等に係る施設の整備,展示等への支援,芸術家等の配置等への支援,文化芸術に関する作品等の記録及び保存への支援その他の必要な施策を講ずるものとする。

・教育基本法 改正(2007) 平成18年法律第120号 注7

第12条 第2項 国及び地方公共団体は、図書館、博物館、公民館その他の社会教育施設の設置、学校の施設の利用、学習の機会及び情報の提供その他の適当な方法によって社会教育の振興に努めなければならない。

・これからの博物館の在り方に関する検討協力者会議(2007年4月~2010年3月) 注8
博物館登録や学芸員制度について種々の検討を行い下記の報告などにまとめました(すべてウェブサイトで公開されています。)。

新しい時代の博物館制度の在り方について(報告) (2007年6月1日)

学芸員養成の充実方策について(報告) (2009年2月18日)

博物館実習ガイドライン (2009年4月30日)

博物館の設置及び運営上の望ましい基準の見直しについて(報告) (2010年3月26日)

・社会教育法・図書館法・博物館法の一部改正(2008) 注9

この時は3つの法律を一括で改正しました。いわゆる「横並び」改正なので、改正点は限られました。この改正の審議の中では、参議院文教科学委員会の附帯決議で「博物館登録制度の見直し」に言及があり、文化審議会への諮問・答申や、それを受けての今回の法改正の根拠の一つとなっています。

・文化芸術基本法(2017) 注10

文化芸術振興基本法(2001)を一部改正、法律名も変更。議員提案。

・文部科学省設置法改正(2018年6月) 注11
改正前、博物館の所管は主として生涯学習局社会教育課である一方、美術館・歴史博物館については文化庁の所管でした。この改正で、あらゆる館種の博物館を文化庁が一括して所管することになりました。生涯学習局・社会教育課廃止。

・文化審議会に新たに「博物館部会」設置(2019年11月) 注12

博物館法制度の今後の在り方について(審議経過報告)  2021年7月30日
博物館法制度の今後の在り方について(答申)  2021年12月20日

・文化審議会博物館部会に「法制度の在り方に関するワーキンググループ」を設置(2021年2月) 注13

登録制度を中心とした博物館法制度の今後の在り方について(中間報告)  2021年3月24日
博物館法制度の今後の在り方について(審議のまとめ) 2021年12月6日

・文部科学大臣から文化審議会に「これからの時代にふさわしい博物館制度の在り方について」 諮問(2021年8月) 注14

・文化審議会「博物館法制度の今後の在り方について(答申)」  2021年12月20日(再掲)

この報告書では、これまでの博物館法の経緯・博物館行政の流れについても詳しく触れられていて資料としても有用です。また諮問された博物館の登録制度ばかりでなく、学芸員制度など広範な課題が議論されており、今後の博物館のあり方を検討するためのベースになると考えられます。

【続きは上記PDFでお読みください】

 

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