【連載】「博物館と社会を考える」第14回 改正博物館法が施行されました

投稿者: | 2023年5月9日

連載:博物館と社会を考える 第14回

改正博物館法が施行されました

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林 浩二(千葉県立中央博物館)

これまでの連載
第1回 科学館は博物館ですか? (2015年5月)
第2回 博物館はいくつありますか? (2015年7月)
第3回 博物館の展示は何かを伝えるのですか? その1 (2015年9月)
第4回 博物館の展示は何かを伝えるのですか? その2 (2016年2月)
第5回 博物館の国際的動向2016 (2016年10月)
第6回 科学館・科学博物館の社会的役割宣言(2017年3月)
第7回  世界科学館・科学博物館の日(2017年8月)
第8回  第2回世界科学館サミットと東京プロトコル(2017年12月)
第9回 ツールとしての持続可能な開発目標(SDGs)(2018年3月)
第10回 京都で開催された国際博物館会議ICOM大会(2019年10月)
第11回 博物館の世界的組織の環境保全と教育への取り組み(2022年2月)
第12回 国際博物館会議(ICOM)の博物館定義の改定と博物館法の一部改正(2022年4月)
第13回 新しい博物館の定義が採択されました(2022年9月)

 *本号のトップページ表示のイラストは文化庁の「博物館総合サイト」のグラフを使っています。

 

  1. はじめに

本連載では、第12回「国際博物館会議(ICOM)の博物館定義の改定と博物館法の一部改正」(2022年5月)と第13回「新しい博物館の定義が採択されました」(2022年9月)で博物館を巡る内外の最近の動きを追ってきました。
改正博物館法(2022年4月に一部が改正された博物館法をこの文中ではこのように記し、以下、誤解がない場合は単に「法」とします)は2022年4月8日に成立、4月15日に公布され、附則で定められたように、成立から約1年後の2023年4月1日に施行されました。
この法改正を考える論点は多岐にわたります。施行後間もないことでもあり、評価を急ぐのではなく、まずは改正博物館法の成立後の経過を見ていきたいと思います。

  1. 博物館法 (昭和26年法律第258号)(1951)

今改正のような「‥‥○○法の一部を改正する法律」の条文は、元の条文のある部分をこのように改正するという記述が続くもので、新旧対照表があるとしても、改正の結果、条文全体がどうなるのかは、成立後少しするまでは、わかりやすい形では示されません。もちろん、現在は最新の条文が見やすく表示されています。
現行の法律の条文は、今は国のデジタル庁が運営する「e-Govポータル」内の法令検索で「博物館法」と検索すれば閲覧できます(注1)。この3月までは「改正前」と「未施行の改正」の二通りの表示が選べましたが、現在は改正法だけが表示されます。沿革の一番下を見るとリンクがでていて、法改正の沿革については国立国会図書館が運営する「日本法令索引」でたどれます。
博物館法についてこの法令索引で調べていけば、たとえば、それまで都道府県教育委員会だけにあった博物館登録の事務が、政令指定都市内の博物館に関しては指定都市の教育委員会に移管されたのは2014年の第四次地方分権一括法(平成26年法律第51号、2014年4月1日施行)による改正であることが分かります。
ただし、博物館法の具体的な運用は関連の法令と共に行われるため、それらも見ていく必要があります。

  1. 博物館法施行規則(昭和30年文部省令第24号)(1955)

改正法の条文の中には「文部科学省令で定める」という表現が9箇所あり、これらはいずれも、文部科学省令として発出される博物館法施行規則(注2)を指します。学芸員資格を取得するための大学の科目と単位数(法第5条・第6条)、都道府県(および指定都市)教育委員会が博物館を登録する基準を定めるために「参酌する」元となる基準(法第16条第2項)、博物館協議会の委員の任命の基準を条例や規程で定めるために「参酌する」基準(法第25条)、博物館に相当する施設を指定すること(法第31条)など、法の運用上、きわめて重要で具体的な基準等は、この施行規則で定められています。
一般に法律については国会が議論し決定します。一方、政策の詳細な基準、省令等については、閣議決定等の前にそれらの案文へのパブリック・コメント(意見公募手続)が行われ、誰でも意見を表明できます。ただし、その案やパブリック・コメントいつ出る予定なのかは事前には知らされません。
連載の前回、第12回(2022年9月)では、博物館登録のための参酌すべき基準が、施行規則としてまだ示されていないことを述べました。改正法は2023年4月1日には施行されるので、施行規則で示される「参酌すべき基準」を元に都道府県(および指定都市)の教育委員会が博物館登録の基準を検討・策定する時間を考慮すれば、少しでも早い施行規則の決定・発出が望まれたはずです。関係者の間では、文化庁が管轄する別案件が影響して、施行規則改正の立案作業が遅れているのでは、という話が出ていました。
結局、この施行規則改正についてのパブリック・コメント(注3)が発表されたのは2022年12月27日で、締め切りは年末・年始の休日を挟んだ2023年1月11日でした。募集期間は16日間、うち平日はわずか7日という極めて短期間の募集でした。年末年始とあって関係者に伝わるのに時間がかかりましたが、意見募集期限の直前に、この案をめぐってオンラインで議論する自主的なイベントも開催されました。関係者の努力もあって、このパブリック・コメントには88件の意見が寄せられたとのこと。最終的に、改正された博物館法施行規則が公布されたのは2023年2月10日でした。

  1. 博物館登録の基準の策定と公開 (進行中)

改正博物館法の施行(2023年4月1日)時までには、各都道府県および指定都市の教育委員会は、改正博物館施行規則の中の基準を参酌して、それぞれの博物館登録の基準を策定し、ウェブサイト等で公開することが期待されます。
Facebookの中の公開グループ「新博物館法の下での博物館登録手続きに関する情報と登録申請状況の共有」(注4)では現在、法改正を受けて、都道府県・指定都市等それぞれの博物館登録の基準の改正についての情報共有を行っており、有用です。このページで共有されてわたしが初めて知ったのは、都道府県から市町村に博物館登録の事務を移譲している例があることです(北海道と岩手県、山形県で確認)。このグループでは情報を持ち寄り、自主的にリストアップして共有しようとしています。有用なリストになると思われます。

  1. 教育委員会と首長部局(自治体の博物館所管や登録事務)

博物館法では長く、公立博物館を登録する際の条件として、教育委員会の所管であることが規定されていました。今回の改正に先立ち、第九次の地方分権一括法(令和元年法律第26号)(2019)では、自治体の中の博物館や図書館、公民館の所管は教育委員会に限ることなく、首長部局が所管できるように定めました。その際には、地方教育行政法(昭和31年法律第162号)(1956)に従い、その自治体では首長(知事、市長等)が社会教育施設を設置・管理等をすると条例で定めることになります(注5)。
連載第2回で触れた「補助執行」は、元々教育委員会が担当する博物館の運営事務を、知事部局が担うことを可能にしたのですが、2019年以降は、登録博物館が教育委員会から首長部局に移管されても登録の要件には問題ないことになりました。
自治体(都道府県)によっては、都道府県立博物館の設置や管理等の事務に加えて、管内の博物館登録の事務を併せて知事部局が担うこともありますが、一方で博物館法は、博物館登録の事務を都道府県(または指定都市)の教育委員会が行うと規定しています。この場合も「補助執行」を用いることで、知事部局が博物館登録事務を担うことが可能になり得ます。
以上のように、博物館法制定時しばらくは教育委員会に限られていた、公立の登録博物館の所管や都道府県(または指定都市)管内の博物館登録の事務は、今や自治体ごとに柔軟に、首長部局でも担えるように変わってきています。教育委員会と首長部局という所管の違いが博物館のあり方や運営にどのように影響するのか、あるいはしないのか、詳細はまだ明らかになっていません。

  1. まとめに代えて

今回は改正博物館法の施行に伴う動きについて、その一部を紹介しました。
施行規則で定めた参酌するべき基準と、各都道府県(あるいは指定都市)が定めた登録の基準の異同には注目が集まります。ただし、述べてきたように参酌基準が決まってから年度末まではあまりに時間がなく、各自治体では、ほぼ参酌基準を踏襲した基準となっている例が少なくないようです。これらに関しては、それぞれの基準が出揃って公開されてから論じたいと思います。
最後に、改正博物館法とは別の動きとして、図書館および博物館の関係者有志による「次世代型文化施設フォーラム」の活動を紹介しましょう。この次世代型文化施設フォーラムは2021年7月から活動を始め、「越境シンポジウム」と題したオンライン会合を繰り返し開催して議論を積み重ね、2023年5月には叩き台として「博物館・図書館等を基盤とした地域文化資源の保全と活用を求める政策提言 ―文化資源の「地域包括シェア」をめざして―」を公開しました(世代型文化施設フォーラム. 2023)。この活動には、もちろん公民館・文書館なども視野にはいっています。博物館を含む文化施設がどうあるべきか、これからどのような方向に向かえるのか、関心あるみなさんと議論したいと思います。

 

謝辞: 博物館法改正や博物館登録について日頃情報を集めて発信しておられる橋本延佳さん(兵庫県立人と自然の博物館)に深く感謝申し上げます。

 

【文献】 (ウェブサイトはいずれも、2023年5月1-5日に閲覧しました。)

次世代型文化施設フォーラム. 2023. 博物館・図書館等を基盤とした地域文化資源の保全と活用を求める政策提言 ―文化資源の「地域包括シェア」をめざして―
.https://drive.google.com/file/d/1wTfYfpMdob2iMhLPH6NXaavAvZiCCOtU/

文部科学省 国立教育政策研究所 社会教育実践研究センター. 2022. 令和3年度博物館に関する基礎資料. 1182p.
http://id.nii.ac.jp/1296/00001878/

参考:

文化庁 博物館総合サイト(2022年12月公開)
https://museum.bunka.go.jp/

林 浩二. 2023. 第8章 博物館は市民の学びにどうかかわるのか. p.122-135. 所収:二ノ宮リムさち・朝岡幸彦(編著). 『社会教育・生涯学習入門 誰ひとり置き去りにしない未来へ』. 人言洞, 横浜市. iii+153p.

 

【注】

注1 博物館法(昭和26年法律第258号)という法律番号は、法律を誤解なく特定するためのもので、博物館法のように部分改正を繰り返している法律では当初の成立時のものがそのまま使われる。一部ではなく全文を置き換える「全部改正」が行われると法律番号は変わる。

注2 博物館法施行規則は、全部改正された1955年版を少しずつ改正しており、法令番号は「昭和30年文部省令第24号」のままである。最新の改正は「博物館法施行規則の一部を改正する省令」(令和5年文部科学省令第2号)で、2023年2月10日に公布され、改正博物館法と同時に2023年4月1日に施行された。法と同様、e-GOVで検索・表示できる。

注3博物館法施行規則の一部改正案に関するパブリックコメント(意見公募手続)の結果について.
このページから、公募時の画面へのリンクが表示されており、そちらでは募集期間が30日未満となる理由も説明されている。全部で88件の意見が寄せられ、それら意見の概要と文部科学省の考えが出ている。
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCM1040&id=185001278&Mode=1

注4 新博物館法の下での博物館登録手続きに関する情報と登録申請状況の共有(Facebookの公開グループ)
https://www.facebook.com/groups/533970455470837

注5 第九次地方分権一括法による社会教育関係の法律改正については以下のような通知が出ている。
地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律による社会教育関係法律等の改正について(通知)(2019年6月7日)
この通知は『博物館に関する基礎資料』 (2022)の125-129ページに載録されている。この基礎資料は、毎年制作され、その時点での現行法令とその運用について参照するべき重要な文献である。

 

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